
私は幼いころからピアノを習っており好きが高じて音楽教室の講師という職業に就きました。音楽教室の講師も、初めは全国的な大手の教室講師からスタートし、その後独立、今は自分のキャパに見合う生徒数で個人教室を運営しています。今回は、私自身の経験や考えをもとに【音楽教室講師のメリットとデメリット】を、まずは大手音楽教室のことだけに絞ってまとめます。
結論
メリット
- 初めからある程度の生徒数を抱えてレッスンできる
- 個人レッスンだけではなくグループレッスンの経験もできる
- 生徒募集や教室管理はほぼノータッチ
- 専門外の楽器の事も学べ、研修なども充実している
- 年間のイベントが豊富にあることで運営面でもたくさんの学びがある
- 講師仲間が常に近くにいることで気軽に相談できる
デメリット
- なんといっても手取りの給料が少ない
- 年間イベントに追われがち
- レッスン時間に余裕がない
- 人間関係のいざこざを多く目にする
- 講師業以外の仕事も意外と多い
こんな感じでしょうか。以下で詳しく解説していきます。
メリット
1.初めからある程度の生徒数を抱えてレッスンできる
私が大手音楽教室講師になりたての2005年頃は、教室全体で1,000名以上の生徒さんが在籍されていました。なので講師1人の担当生徒数もバラツキはありましたが平均40名くらいだったようです。当然、新人講師の私も初めから30名ほどの生徒さんを担当することになりました。年齢も当時3歳~50歳代の方まで幅広く担当できたのは大きな経験となりました。
2.個人レッスンだけではなくグループレッスンの経験もできる
大手音楽教室はグループレッスンも盛んにおこなわれています。(今では個人教室の先生方もグループレッスンをされている方は多くいます)私は大手教室講師時代に子どもも大人も両方のグループコースのレッスンを長く担当しました。個人レッスンにはない指導の難しさを経験し、たくさん学びました。
3.生徒募集や教室管理はほぼノータッチ
これは大手ならではのメリットだと思います。募集のためのチラシつくりや広告掲載、SNSによる宣伝などは事務所の方々(社員さん)が行ってくれるので、私たち講師は体験レッスンのやり取りから始めればよいのです。宣伝するための手間と時間が省けるのは楽でした。また、教室管理もピアノの調律やお部屋のメンテナンス・備品の補充なども私たち講師に負担のかかることはありませんでした。
4.専門外の楽器の事も学べ、研修も充実している
大手音楽教室には、ピアノ講師以外にもいろんなジャンルの講師がいます。例えば、打楽器(ドラムやカホンなど)やギター、フルート、バイオリンなど。また、ピアノの講師もクラシック専門の講師以外にジャズやポピュラー音楽を得意とする講師もいます。私が新人講師の頃は、年間を通して打楽器の研修を受け様々な楽器の奏法とリズムを学びました。他にも、ベテラン講師によるグループレッスンについての研修や和声やコード・即興演奏・アレンジなどの研修も定期的に行われていました。常に学びのある環境に身を置くことで、私自身の成長へとつながりました。
5.年間のイベントが豊富にあることで運営面でもたくさんの学びがある
大手音楽教室は、年間を通して発表会や進級テスト(グレードテスト)・コンクール・おさらい会・コンサートなど5~6回はステージ演奏の機会があります。これらは強制参加ではありませんが、自分の担当する生徒さんが一人でも参加する場合は、講師である私もその会場に行き何か仕事が割り振られます。そこで、会の進行の様子や準備、荷物の運搬や生徒さんの動線を知ることができます。大手の教室となれば、一度に参加する生徒数もそれなりに多くいるので、いかにスムーズに進行・運営できるかは大事な要素となります。私が講師をしていた約10年間、それを身をもって経験できたことは今でも役に立っています。
6.講師仲間が常に近くにいることで気軽に相談できる
どんな仕事をしていても悩みや困りごとはありますよね。そんな時に大手音楽教室なら、たくさんの講師がいますので、いつも誰か相談に乗ってくれたり話を聞いてくれます。時には雑談して楽しい時間を過ごしながら、その中で自然と仕事の話しなり新しいアイディアが生まれたりもします。私の場合、性格上、日々の悩みは尽きませんでしたが、その多くを講師仲間に話して乗り越えてきました。また、同じ講師仲間の存在は、指導するにしても自己研鑽にしても良い刺激とパワーをたくさんもらいました。
デメリット
1.なんといっても手取りの給料が少ない
基本的に給料は完全歩合制ですが、講師の保有グレードによって、また、生徒さんの在籍コースのレッスン料金で生徒単価が変わります。
(例)
グレード初級の講師が月々のレッスン料金5000円の生徒を10人担当している場合 ⇒ 初級=1倍 × 生徒単価900円 × 10名 =9000円
グレード中級の講師が月々のレッスン料金5000円の生徒を10人担当している場合 ⇒ 中級=1.5倍 × 生徒単価1500円 × 10名 =30000円
グレード上級の講師が月々のレッスン料金5000円の生徒を10人担当している場合 ⇒ 上級=2倍 × 生徒単価2500円 × 10名 =50000円
これはあくまで一例なので計算がしやすい数字設定での表記ですが、同じ講師がレッスンしていてもその時の保有グレードで手取り給料が変わります。新人講師の頃、講師グレードに合格するまでは30~40人のレッスンをしていても手取りの給料が5~6万くらいでした。その後講師グレードを受験しましたが、グレードテストの受験料も高額な上、私の住む町からは受験会場まで電車やバスを乗り継ぎ往復4時間かかる距離ということもあり交通費もかかります。しかも、毎月何かしら研修があり、給与天引だったので、結局手取りは3万円なんて月もありました。
2.年間イベントに追われがち
メリットの項目でもお話しした通り、年間で5~6回のステージイベントがある大手音楽教室。そのうち3回(生徒グレードテスト・発表会・コンクール)は全ての生徒さんにご案内して参加してもらっていました。もちろん強制ではありませんが、多くの生徒さんがそれらを目標にして練習に励みます。すると、日頃のテキストの練習が疎かになり基礎練習や楽典などを学ぶ機会が減っていきます。いくら上手に演奏できるようになっても、基礎練習ができていなければボロが出るし、楽典などの知識が少なければ表現に個性が出ません。それらをゆっくり学ぶ時間を作ろうとしても、次々に迫ってくるイベントのための練習になってしまいがちでした。
目標を持つことは大切だし、生徒さん側の「イベントに出たい!」という気持ちも尊重していましたが、もっと基礎の部分を深めたり、楽典やソルフェージュの練習をすることもそれ以上に大切なことです。この辺のバランスが難しかったです。
3.レッスン時間に余裕がない
とにかく「来たもの拒まず」態勢の大手音楽教室。生徒さん側の希望曜日・希望時間に合わせた形で入会があります。そのような事情もあり、かつて私も、朝の10時10分~13時30分まで続けてレッスンし、15分程度の休憩をはさみその後20時30分までノンストップレッスンだった日がありました。そんな時は、次の生徒さんのために1分の遅れも許されません。時間きっちりにレッスンを終了し、次の生徒さんを迎える。まるで、ロボットかのような機械的な流れのレッスンでした。また、一日の内に3か所の違う教室でレッスンなんてこともザラでした。すべて車での移動でしたので月に3回くらいガソリンを入れていました。
4.人間関係のいざこざを多く目にする
これは、女性の多い職場あるあるかもしれません。いろんなタイプの講師がいますので、こじれる話も多々耳にしますし、見かけました。ほどよい距離感を保つことを学びましたが、疲れることも多かったです。
5.講師業以外の仕事も意外と多い
これもメリットでもありデメリットでもあります。私は音楽教室にピアノの講師として入社したにもかかわらず、ピアノ販売のために生徒さんのお宅に電話したりお手紙を書いたりしたこともありました(電話や手紙を書いたのはほんの1~2回くらいですが、とても嫌だったのでそのあとからはサボるようになりました)また、ステージイベント以外のイベントもあり、その参加者集めや引率(もりあげ隊?)などもしていました。ピアノを教えること以外に経験できたことはよかったと思う反面、すごくストレスに感じることも多かったです。
まとめ
メリット
- 初めからある程度の生徒数を抱えてレッスンできる
- 個人レッスンだけではなくグループレッスンの経験もできる
- 生徒募集や教室管理はほぼノータッチ
- 専門外の楽器の事も学べ、研修なども充実している
- 年間のイベントが豊富にあることで運営面でもたくさんの学びがある
- 講師仲間が常に近くにいることで気軽に相談できる
デメリット
- なんといっても手取りの給料が少ない
- 年間イベントに追われがち
- レッスン時間に余裕がない
- 人間関係のいざこざを多く目にする
- 講師業以外の仕事も意外と多い
大手音楽教室講師であった約10年間は決して無駄ではなかったと思っています。たくさんの出会いがあり、経験し学ばせてもらいました。20代という若い間にこれらを経験したことは、この後の私の人生に大きな影響をもたらしました。これから「ピアノ先生になろうかな」「個人で音楽教室を開こうかな」と考えている人は、まず手始めに大手音楽教室に飛び込んで経験を積んでもいいのではないでしょうか。とは言え、今はインターネットで情報がすぐに手に入る時代です。自分の学びたいことも教室運営の方法も発表会のスムーズな進行方法も、自分で検索して知ることができます。ですが、ネット上の検索結果で得た知識より、まず身をもって体験してみることが音楽教室の講師としてのスキルアップにもつながります。子どもたちの未来へつながるピアノのレッスンが展開できるように一緒に頑張りましょう。
